5歳児健診と発達障害について - 2014年10月28日公開

5歳児健診と発達障害について
母子保健法では、第12条にて1歳6か月児健診、3歳児健診の実施が市町村の責務とされています。また、第13条にて、必要に応じ、妊産婦又は乳児若しくは幼児に対し、第12条で定める以外の健康診査の実施又は勧奨をしなければならないとされています。実際、各自治体では1歳6か月児健診、3歳児健診をはじめ、母子保健
計画に沿って様々な月齢の健診が行われていますが、近年では、「5歳児健診」が注目されています。

5歳児健診は、就学前に発達障害(※1)の可能性のある児童を発見し、就学後の不適応を少なくするための支援を目的としています。3歳までの健診では、集団行動における問題点は明らかにされにくいですが、5歳ではほとんどが保育所、幼稚園で集団生活を受けているため、それまで明らかになら
なかった軽度の発達上の問題、社会性の発達における問題が明らかになると言われています。

5歳児健診が注目されている理由としては、平成17年に施行された発達障害者支援法のなかに、地方公共団体の責務として、発達障害の早期発見、発達障害児に対する早期支援が求められるようになったためと言われています。

発達障害者支援法 第1章第3条2項
国及び地方公共団体は、発達障害児に対し、発達障害の症状の発現後できるだけ早期に、その者の状況に応じて適切に、就学前の発達支援、学校における発達支援その他の発達支援が行われるとともに、発達障害者に対する就労、地域における生活等に関する支援及び発達障害者の家族に対する支援が行われるよう、必要な措置を講じるものとする。


厚生労働科学研究「軽度発達障害児に対する気づきと支援のマニュアル」(平成19年)によれば、「1000名を越える5歳児を小児科医が診察するという確度でもって軽度発達障害児の発生頻度は8.2~9.3%であると推定された」と考察されています。しかも、こうした児の半数以上が3歳児健診では何の問題指摘もなされていなかったことから、軽度発達障害児に気付くための場としては、5歳児健診がきわめて有用であるとされています。5歳児健診から就学までには時間があるため、その間に丁寧な指導を受けることで子どもに成長が見られたり、保護者が特別支援学級など適切な就学先を考えることができるというメリットもあります。


また、発達障害は「虐待」と関連づけられることが少なくありません。
発達障害のある子どもは、親(または保護者)から虐待を受けやすいと言われています。子どもの発達障害は、外見や明確な検査によって診断することができず、診断には高度な専門的判断が必要で存在が
わかりにくいという特徴があります。そのため、親が子どもに障害があることがわからず、「ふざけている」
「できるのにやろうとしない」など、子どもへ否定的な感情を持ちやすくなります。子どもは親から困難な課題を与えられ、自己評価を低下させます。さらに、周囲が子どもの障害の存在や特性を理解していないと、子どもの問題を親のしつけ不足など不適切な子育てによるものと考え、親に対して子どもの問題の改善を強く求めます。それにより、親は自責感を強め、子どもにより厳しい、不適切な対応を取るようになります。これらの悪循環の過程で条件が重なると、虐待につながります。

このような悪循環から抜け出すには、親が子どもの障害を適切に理解することが不可欠です。障害を受け入れる過程は、親にとって大きな心理的負担があるとされていますが、一方で、障害を告知されることによって、自責感を持っていた親が子どもの問題の原因を理解することで納得・安堵し、肯定的な感情が生まれ、虐待の解消にもつながるというケースもあります(※2)。このことから、発達障害の早期発見は、子育てに不安をもつ親に寄り添う支援、ひいては虐待予防の重要な要素となると考えられます。


しかし、5歳児健診を実施する自治体は増えてはいるものの、政令指定都市や特別区といった人口の多い自治体でも現時点では実施している方が少なく、あまり普及していないのが現状です。法制化されていないため、自治体のコスト負担となる、健診方法が確立されていない、健診実施後のフォロー体制を検討する必要があるなどの課題により、実現に至っていない自治体が多いようです。


困ったときや悩んだとき、些細なことでも相談に応じてくれる人、何もなくても温かく見守ってくれる人がいるだけで、心の負担が軽くなるものだと思います。地域とのかかわりの希薄化が進む今、その反動により生じる歪を埋めるために、5歳児健診のような「気付くための場」を増やすことが求められているのではないでしょうか。


※1 発達障害者支援法において「発達障害」は、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定められていますが、ここでは「軽度発達障害」も含めて「発達障害」としています。
※2 参考: 渡辺 隆(2014).『改訂 子ども虐待と発達障害』,101-109.



担当
永野 千帆

2011年4月 入社
積極的な情報収集と還元が評判の若手メンバ。
小動物系の愛くるしいルックスで周囲を癒し、よく動きまわる働き者。

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